「図書館で役立つWeb技術」 図書館のサイト構築に役立つ技術を、最近のWeb技術の中からピックアップし て紹介します。詳しくは本特集の記事をご覧ください。 1.WWWの進化と最近の動向 WWW(World Wide Web)が1989年にこの世に生まれてから、15年の歳月が経ちま した。WWWはスイスの研究所で研究文書を共有するために作られた技術ですが、 すぐにインターネットに広まりました。日本では、1994年頃にWebブラウザ (NetscapeやInternetExplorer) の日本語版が公開されています。今やWWW は、 それがない生活が考えられないほど生活に密着した感がありますが、日本での 歴史は意外と浅く、わずか10年しかありません。 Webサイトを検索する方法も、この10年で大きく変化しました。WWWができた当 初はサイトの数も少なく、世界中のサイトを集めても1ページのリストに収め ることができました。もう少し増えてくると、Yahooのように分野ごとに分類 されたリストが使われるようになりました。そのうち、Webサイトの数は爆発 的に増加し、人手による収集・分類と並行して、Webページを機械的に収集・ 検索する検索エンジンが使われるようになりました 1)。現在のWebページの数 は数百億ページと言われており、Google などの検索エンジンはその中の一部 (数十億ページ程度)を収集することで検索機能を提供しています。 これほど多くのページが作られるようになった理由のひとつには、Webページ の作り方が変化したことがあります。当初はHTMLを手入力して作られていまし たが、そのうちにホームページ作成ソフトで作ったHTMLをサーバーに転送する ようになりました。最近では、PC上のソフトを使わずに、広義のCMS(Content Management System: コンテンツ管理システム) によって、Webブラウザから Webページを作成する技術が普及してきています。 ここでは、Webページを簡単に作成するためのいくつかの方法を紹介します。 2.CMSソフトウェア CMSの多くでは、掲載したいコンテンツをWebブラウザから入力することにより、 サーバー上のプログラムがそれを受け取ってWebページを作成します。Webブラ ウザから入力する仕組みは、以前からWWW上の電子掲示板で利用されていまし た。最近では電子掲示板だけでなく、多くのWebサイトの構築にこの技術が活 用されています。このような仕組みは高価であったために、以前は一部の企業 サイトだけで使われていました。現在は、無料のソフトウェアや無料のサイト が出現し、サイト構築にお金をかけたくない個人を中心に普及が進んでいます。 汎用的なCMSツールとして、Zope 2)やXOOPS 3)が知られています。これらはサ イト構築を総合的に行うソフトウェアで、ユーザー認証やフォーラムなどの機 能を持ち、ポータルを含むさまざまなサイトを容易に構築できます。 Blogは、現在最もホットなツールです。Blogは他のWebサイトを参照してコメ ントを書くのに適しており、日々のニュースや写真、他人のBlog記事などを参 考にして、自分の日記風に記事を追加していくことができます。また、参照し たサイトがBlogである場合は、そのサイトに対してTrackBackと呼ばれる通知 を送ることで他のBlogへの参照通知を行えます。結果として、Blogの作者はそ れぞれが自分のBlogに記事を書きながら、互いにコメントを交換するといった ゆるやかな連携を行うことができます。図書館関係でも、いくつかのBlogが公 開されています 4)。 Wikiは誰でも修正可能な電子掲示板です。新しいページを作り互いに修正しな がら、多数の手で協力してサイトを作り上げることができます。Wikiを利用し た大規模のサイトとして、WikiPedia 5)が知られています。百科事典を世界中 の有志で作るプロジェクトです。このサイトのページには誰でも書くことがで き、サイト全体を多数のボランティアが管理しています。その他、本来の使い 方ではないかもしれませんが、Wikiを共通の興味を持つメンバーだけが編集で きるように設定しておき、共同でサイトを編集する運用も行われています。 この項で説明したCMSツールの利用を活用法を表1にまとめました。筆者はWiki を使って研究室のサイト 6)を運用しているほか、いくつかの研究会のサイト 7) にも環境を提供しています。また、筆者の職場では、職場内からのアクセ スに限定する形で、Wikiを日誌などの記録や文書の共有のために活用していま す。図書館においても、CMSツールの活用は大きな効果を期待できそうです。 表1: 図書館での利用例 (図書館員) +-----------+-----------------+----------------+ | ツール | 外部公開 | 内部限定 | +-----------+-----------------+----------------+ |Blog |個人日記 |業務日誌 | +-----------+-----------------+----------------+ |Wiki |Wikipediaへの貢献|業務日誌 | +-----------+-----------------+----------------+ (図書館) +-----------+-----------------+----------------+ | ツール | 外部公開 | 内部限定 | +-----------+-----------------+----------------+ |Blog |お知らせ | | +-----------+-----------------+----------------+ |Wiki | |文書管理、掲示板| +-----------+-----------------+----------------+ |Zope |図書館サイト |文書管理、掲示板| |XOOPS |ポータルサイト | | +-----------+-----------------+----------------+ 個人でBlogを始める場合には、無料のサービスを利用するのがよいでしょう。 人気のあるサイトとして、はてなダイアリー、livedoorブログ、yaplog、goo ブログ、ココログなどが存在します 8)。 図書館でサイトを公開する場合には、URLに組織のドメイン(〜.ac.jpなど) を 使いたいことが多いと思います。このような場合には、図書館内にサーバーを 立てて運用するのが普通ですが、思い切ってホスティングを利用するという手 もあります。商用のサーバーの一部を借りて、あたかも自分のWebサイトのよ うにサイトを運用します。この場合、事前にどのようなサービスが提供されて いるかをよく確認することが重要です。これらのツールが用意されていない場 合には、CMSツールを運用することが困難な場合がありますので注意してくだ さい。 3.メタデータ Blogなどの普及は、Webページが簡単に作れるようになったことのほかに、イ ンターネットにもうひとつのインパクトをもたらしました。それは、インター ネットの世界にメタデータを普及させたことです。CMSツールの普及により、 Webページを作成する際に、目次などを自動的に生成することが可能になりま した。この流れを加速させたのはBlogの普及です。Blogの重要な貢献のひとつ に、当初からRSSというメタデータをサポートしていたことがあります。Blog では記事が追加されるたびに、最新の記事のリスト(RSS)が自動的に更新され るようになっています。読者はRSSを見ることで、サイトの更新と新しい記事 のタイトルを知ることができます。その結果、RSSがインターネットに急速に 普及しました。RSSが使われ始めたのは2000年頃からですが、現在ではRSS用の 検索ディレクトリや検索エンジンが登場するほど普及が進んで来ています。 RSSの実体は、HTMLに似たXML形式のテキストファイルです。RSSの内部には、 サイトに含まれる最新の記事の目次が書かれており、Webページと同様にWebサ イトに置かれます。RSSの規格によってはダブリンコアなどのより詳細な内容 記述が可能ですが、一般には「タイトル、時刻、URL」の情報が使われます。 Webサイトが修正されると、RSSは自動的に更新されます。RSSの更新は、RSSリー ダーによってチェックできます。当初は専用のRSSリーダーが使われていまし たが、最近ではWeb上でRSSをチェックするサービスや、Webブラウザやメール ソフトなどの、よく使うソフトウェアにRSSリーダーが組み込まれるようにな りました。筆者は専用のアプリケーションを起動するのが面倒なため、フリー のメールソフトであるThunderbird 9)を使い、メールをチェックする際に興味 のあるサイトの更新をRSSでチェックするようにしています。 4.まとめ CMSを上手に利用することで、Webサイトを容易に構築できるようになりました。 利用する価値は高いので、今回の特集記事を参考にして調べてみてください。 CMSを使うもうひとつの利点は、RSSというメタデータが自動的に作られること です。RSSを公開することで、利用者に対してサイトの更新を効率よく伝える ことができます。図書館から利用者への通知方法の特徴を表2にまとめました。 表2: 利用者への通知方法 +--------+----------------------+----------------------+ |通知方法| 特徴 | 利用法の例 | +--------+----------------------+----------------------+ |メール |全員に届く |督促などの個別連絡 | +--------+----------------------+----------------------+ |Webのみ |見に来ないとわからない|重要でないお知らせ | +--------+----------------------+----------------------+ |Web+RSS |興味を持つ人に知らせる|臨時休館、特別展示など| +--------+----------------------+----------------------+ CMSを知るためには、自分で使ってみることが早道です。そのためには、無料 のBlogサービスを使い、自分のBlogを作ってみることをお薦めします。日々の 出来事や考えたことを書くだけでも、興味を持ってくれる人が必ず存在します。 また、気軽に日記を書くだけで、メタデータが公開されることを確かめてみま しょう。それは未来のWebの姿につながる、すばらしい世界の一端を体験して いる瞬間かもしれません。 参考資料: 1) 兼宗進. 検索エンジンの検索アルゴリズム. 情報の科学と技術, 情報科学 技術協会, Vol.54, No.2, pp78-83, 2004. 2) 日本Zopeユーザ会. http://zope.jp/ 3) XOOPS日本公式サイト. http://jp.xoops.org/ 4) Liblog JAPAN | Blog on Library and Information Science http://mwr.mediacom.keio.ac.jp/~mine99/blogs/ 5) Wikipedia. http://www.wikipedia.org/ 6) 一橋大学 兼宗研究室. http://kanemune.cc.hit-u.ac.jp/kanemune/ 7) メタデータ研究分科会(私立大学図書館協会東地区部会) http://kanemune.cc.hit-u.ac.jp/metadata/ 8) 人気のあるBlogサイトの例 はてなダイアリー. http://d.hatena.ne.jp/ livedoorブログ. http://www.livedoor.com/ yaplog. http://www.yaplog.jp/ gooブログ. http://blog.goo.ne.jp/ ココログ. http://www.cocolog-nifty.com/ 9) Mozilla Thunderbird. http://www.mozilla-japan.org/ 兼宗 進 (一橋大学総合情報処理センター助教授 かねむね すすむ)